営業が案件を進めていくうえで、2つ目の壁が「案件停滞」でした。
多くの場合で、営業が考える「最適な提案」とお客様が考える「最適な内容」とに、
ギャップがある
ことが原因です。
ChampionやEconomic Buyerを抑えていても、彼らが考える「最適」とは何か、これを押さえることで案件がグンと進みやすくなります。
Decision Criteriaが案件進展のカギ
Criteriaとは
判断を行うための評価基準
を指します。
そしてDecision Criteriaとは
「意思決定をするための評価・判断基準」
といえるでしょう。
自社営業は「お客様の課題解決支援」や「施策遂行の支援」という提案を行うわけですが、当然、他社営業も同じように提案します。
Decision Criteriaを把握せずに進めることは、最終局面でひっくり返されたり、安易な価格勝負になることにつながります。案件プロセスにおいては、何度もヒアリングをして進めていきましょう。
少しわかりやすい例をいいましょう。家電は機能もどれも同じで価格帯も似ている競争が激しい分野なので、家電を例にとります。自宅にある冷蔵庫が最近調子悪いとしましょう。10年たったし、そろそろ替え時かなと思いますが、それなりに値段が張るものなので、慎重にインターネットで調べたり、量販店で実物を触ったります。
もちろん事前に「ここは満たすことが必要」という条件があります。キッチンの寸法がありますので、それよりも大きい冷蔵庫はダメ。ほかの家電とのそろいもありますので、色は白で固定。などです。いろいろなブログで他の使用者のレビューなどを参考にすると、「ああこういう点を気にすればいいのか」などの判断基準が固まります。
量販店にいってアドバイザーから話を聞きますが、彼らからはまた別の観点も提示されますので、「そういうものなのかな」と思いながら、迷ったり、どの項目を優先させるか、などを考えています。最後に納期はいつか、配送や引き取り料はいつか、ポイントはなどでどの量販店かECサイトでの注文かなどを決めていきます。
このようにステージによって変化するのもDecision Criteriaとなります。
お客様とのギャップを解消するためにも、Decision Criteriaの確認が必要
Decision Criteriaの事例4選
そうはいってもなかなかどのような基準を持っているのかお客様も簡単に口を割ってくれません。
具体的なDecision Criteriaの事例を持ちながら、確認を進めるとより効率的でしょう。
ベンダー提案内容が実証されているか、特定の機能が充足しているか、価格に妥当性はあるか、自社要員が使いこなせるか、実績が多いか、などとなります。捉え方としては、大きく4つです。
- 技術(製品機能性や技術)
- 経済(TCOの妥当性)
- 関係性(顧客と自社との取引実績)
- 顧客特有の制約条件(ヒト、モノ、カネ、ITの側面)
技術(製品機能性や技術)
最初は、解決策の具体的な手段となる機能性や技術となります。
よほど「新施策実現のために、この機能を使いたい」ということがはっきりしている場合を除いて、機能や技術は「あくまで解決策の手段」ということを認識しておくことが必要です(例:「A地点からB地点に30分で行きたい」という要望に対して、車、バイク、電車の仕組や技術などは手段に過ぎない)
ただし、その機能性や技術が、顧客が抱えている問題解決や施策実現を行うバックボーンとなりますので、要件=実現機能という紐づけをするうえで必要な観点になります。
各業界でトップを走るトップランナー企業の場合は、他企業に先んじて差別化要因を作っていく必要があるため、技術の先進性や新しいことの実現性に重きを置きます。
また、他の企業にも導入され始めた普及期前ステージで、自社導入にも検討している場合には、他社事例で肝となった機能や技術、つまり業界共通的な課題解決になった機能といえるでしょう。
あるいは、今のシステムや基盤からの置き換えであった場合は、現状で満足できていない機能や技術に対する改善策があたります。
経済(TCOの妥当性)
2つ目の観点はコストです。
ROI計算にも使われますが、そのI(=Investment)、分母のところです。
TCOというのはTotal Cost of Ownership(総保有コスト)であり、Gartner社が提唱した概念です。対象システムの複数年にわたる関連コストすべて、という意味になります。
単純に、システムライセンス価格の高い・低いだけでなく、インフラ費用も含まれたり、移行や導入費用、あるいはユーザーの教育コスト、も入ります。ライセンス費用では自社が負けていたとしても、他のコストを顕在化することで自社に有利な場に持ってくることも可能です。
関係性(顧客と自社との取引実績)
3番目は、関係性です。
保守的な企業ほど、自社導入実績(他部門での実績)を重要視します。これには、リスク逓減(失敗するリスク)、権威性やリファレンス(安心感やすでに導入しているユーザーの評価)、導入容易性(他部門での初期導入でバグだし済み)などが背景にあります。
これが強いと、初回導入では満たしづらくなるわけですが、明確かつ深堀をしたうえで、ほかの材料を提供すれば穴埋めは十分可能です。他社事例、導入体制の確保、他企業からの紹介、などです。
顧客特有の制約条件(ヒト、モノ、カネ、ITの側面)
最後は制約条件です。
ヒト(要員の数、体制、スキルセット)、モノ(他システムが提供する重複機能の充足度合い)、カネ(今使える予算の額)、IT(基盤のスペックや連携、データ連携等)、となります。
機能・技術、コスト、関係性が優れていても、制約条件を加味していないと、「オーバースペックだ」「うちには合わない」という評価が下される可能性があります。
重要:Decision Criteriaは変化させることができる
各項目を重視しても、今の時代は、どのベンダーも同じような提案となる場合も多く、差別化が難しいです。特にメガベンダー同士の競争の場合、技術的なCriteriaはどのベンダー製品も充足していることがあります。価格妥当性についても、最終局面でディスカウント価格を提示することが多いため、最初の判断は難しいでしょう。また関係性についても同じです。
ですが、Decision Criteriaは置かれている環境によって変化します。
あくまで意思決定の判断基準であるため、項目自体が変更することもありますし、RFP(Request for Proposal)選定を経験した営業ならわかる通り、各項目の重みづけが変わるのです。つまり、どの企業でも最初からすべてのステークホルダーの要件と満たして、完璧な基準などもっていないわけです。
そのため、Decision Criteriaは確認をするだけでなく、
確認された内容についての精査と、ときには変更
を仕掛けていくことが可能です。
スタートアップ企業の営業で、1,2,3の面で負けている場合は、この変更を仕掛けていきましょう。
そのヒントとなるのが、「4. 顧客特有の制約条件」」です。どの企業も、最高の人員と、余裕のある時間と、最速のシステムと、いくらでも使ってよい予算で、ビジネスを行っているわけではありません。かならず制約条件が存在します。そこを逆手に取るわけです。
たとえば1.ならば、「その機能は必要でしょうか?別のお客様ですと。。。」などと質問を投げかけてお客様を本当の正しい道につなげていく、という形です。
機能が制限されれば、妥当性価格枠も縮小されるはずなので、機能を外せないで価格が同じにせざるをえないメガベンダー製品を、一気に不利にすることができます。
3.の関係性については、営業の腕の見せ所でしょう。
たとえ2-3回しか会っていない役員の方でも、「なるほどね」と思えるような会話をしていけば、一点突破戦略で、関係性確保ができます。そのため局面の最初でいかにEconomic Buyerに会っておくかが重要になるわけです。
機能、コスト、関係性、制約条件を押さえつつ、基準の変更を仕掛けていくのが営業
ChampionのDecision Criteriaだけでは足りない
Championは社内政治力を持ちますので、社内事情にも明るく、他のキーマンが何を考えているかも把握しているケースが多いです。
しかしながら、Championとなる方は、たいてい課長職や部長職であるため、傾向として視点に制限がある場合があります。たとえば自部門の達成目標を中心に考えてしまっている(個別最適)とか、自分のチームの要員しか見えていないとか、です。
もちろんないがしろにしてはいけませんが、重要なのはEconomic BuyerのDecision Criteriaも把握しておくことです。
Economic Buyerの視点は企業規模であるため、売上拡大、利益確保、リスク低減、ケイパビリティ強化などは当然ですが、意外とよくあるケースは「社員が使いこなせるのか」というクライテリアです。これは「本当に欲しいんだったら、ちゃんと使うんだよね?」という思いから来ている場合が多いです。
これらの内容を記載していないと、予算申請をした際内容を見た役員は「全然自分が言っていたことがわかっていないじゃないか」と却下します。Championが「絶対大丈夫」と言っていたのに、予想外の出来事が起きてしまうのです(DJも数回食らったことがあります)。
余談ですが、Championと何回も提案内容をすり合わせ修正しても、Economic Buyerが一度却下する場合もあります。「本当に必要なら、1度や2度の否定であきらめないよね」という思いももたれているたmです。この場合は事前に「一度却下されたら終わりでしょうか?それとも敗者復活戦はありますか?」と確認をしておけばいいでしょう。
コツは、ChampionとEconomic Buyer双方のDecision Criteriaを把握すること
まとめ
Decision Criteriaは製品決定の際の判断基準ですが、日々変わりますので、選定局面ではお客様とのコミュニケーションを絶やさないようにしましょう。
「お客様とどれだけ一緒に時間を過ごせるかがカギ」というのはDJが若いころにいただいたアドバイスですが、お客様の変化を敏感にセンシングすることです。もちろん初回ミーティングの局面で自社が不利だと感じたら、Decision Criteriaの変更をガンガン仕掛けましょう。
最後にChampionだけでなくEconomic BuyerのCriteriaを確認することも忘れずに