3D CADベンダー PTCによって開発されたフォーキャスティングのメソドロジーで、「メディック」と読みます。
そうです、映画でよくある戦場で負傷した兵士がいた際に叫ばれる言葉「メーディーック」と同じです。衛生兵という意味で、外資IT営業現場という戦場において手助けになることは間違いありません。
PTCはIT業界においても非常に戦闘力の高い集団として有名で、PTCで2-3年経験すると他者を圧倒する営業になります(キーエンスのシステム化された仕組みとはまた違った個の力です)。PTC出身の方を何名も知っておりますが、皆さん一様にとびぬけて優秀でした。
このメソドロジーはMEDDICの生みの親であるJack Napoli氏が提供する外部講義を受けることも可能です。MEDDICはMEDDPICCと進化をしていますが、本稿ではオールドスクールかつ基礎的なMEDDICを説明します。
圧倒的な力「MEDDIC」の使い方
MEDDICの各要素の説明の前に、使い方を説明します。
フォーキャスティングで使うと述べましたが、これは
「案件確度を見極めるために、何が埋まっていて、何が埋まっていないか」
を確認することを意味します。
埋まっているピースは本当に埋められているかの確認、埋まっていないピースについてはそれを埋めるアクションを起こしていく、という流れです。
したがって、フォーキャスティングだけでなく営業アクションを決めることにも使われる場合もあります。
Sales Meddic Groupのトレーニングでは、アメリカンフットボールを例にとり以下のようにセールスステージとの違いを示しています。
アメリカンフットボール=超シンプルに言うと「ボールを前に進めるゲーム」
・セールスステージ=ボールを前に進める段階を定義。何ヤード進めるとどのステージになるか。
例)出発点:案件発見 → ビジネス価値合意 → 製品評価 → 交渉 → 契約:ゴール
・MEDDIC=ボールを前に進めるために何をすべきかを定義する。
例)出発点:一気に30ヤード進めるにはキックする:ゴール
MEDDICの有用性
担当者=営業マネージャーの間で共通言語で意思疎通をする場合に非常に有用性があります。
外資のあるある(内資もそうかもしれません)ですが、いろいろな方に案件相談をすればするほど、それぞれ異なった視点でアドバイスをしていただける、ということが起きます。。DJも何度も経験しています。
案件を決めるにはステークホルダーとの握り(合意)が必要だ。合意はしたの?
ちゃんと製品を評価してもらうことが重要。製品評価結果はどうだった?
この製品はあそこには売れないよ。違う製品は提案したの?
これまでの生い立ちや所属部門の性質、あるいはこれまで指導を受けた先輩や上司からのアドバイス、自己の経験、あなたが説明した案件の理解度などによって、いうことがまさに千差万別になります。
相談を受ける側からすれば、どれも正しいように思え、非常に混乱します。
アドバイスいただけるだけで大変ありがたい(アドバイスすらしてくれない人もいます)のですが、どれが優先順位が高いのかがわからなくなるわけです。
その場合はMEDDICを使うと、相手に言っていることも各要素に当てはめて考えることができます。それぞれが何系(ステークホルダーであればヒト系、製品であればモノ系等)のことなのか、もしくはこの人は何系(理系、文系、出身ベンダー系、等)だからという分類を自分の中に作ることができれば、アドバイスも深く理解できます。
マネジメント側もMEDDICに沿って質問をすれば、案件レビューの時間も非常に短くすることができるでしょう。
MEDDICの各要素
MEDDICの各要素を説明していきます。それぞれの要素をさらに詳しく知りたい場合は、リンクをクリックください。
M=Metrics
定量効果(定性効果でもよい)。自社ソリューションからどのような効果が得られるか
最終権限者(=上申をして最後にNoといえる人)。1億円以下の案件であれば執行役員か取締役、数億円の大型案件の場合はEB=経営会議となり、CFOが重要人物となります。
オーナー企業の場合は、ほぼ創業者社長です。つまり、案件金額によって稟議決裁上限の権限が変わるためEBも変わることになります。Economic BuyerがChampionになってくれると案件確定は、ほぼ間違いないです。最低一回は面談しておくとことが外資系では求められます。
意思決定のクライテリア。CHのDCとEBのDCC双方があるので注意。またBusiness ValueとPersonal Valueも違いがある。
意思決定プロセスと納期。日本企業のほとんどにおいて、公式(稟議プロセス)ではなく、非公式(事前相談をだれにするか、根回し、下ネゴ、事前調整等)を指します。投資会議などの半公式な場あっても、会議の場で一か八かを行うのではなく、会議参加者の役員の方々数名に事前に進める旨の合意を取っておくことが必要です。
課題や問題(苦痛になるほどのもの)。自社のビジネスが右肩上がりで、自社業務も効率的かつ楽であれば、Painはないといえるが、強者はこれを無視して受注していきます。
C=Champion
自社の製品を自分の代わりにどんどん売ってくれる+社内で政治力を持つ人。Fan(いっけんCHに見えるが、自社製品への思いが強烈な人)やCoach(社内の事情はいろいろ教えてくれるが、動いてはくれない)と混同しないことが重要です。
MEDDIC各要素の関係性
非常にシンプルなメソドロジーではありますが、6つすべてを一度に把握することよりも、DJオリジナルの関係図で把握をしていきましょう。
まずオレンジ色「ヒト」系要素のEconomic BuyerとChampionです。
人は人から買うという概念からわかる通り、この2つが最も重要であるといえます。案件のなかにこの2つが存在しているかどうかで購入の道筋が分かれます。
次にブルー色「提案内容」系要素です。関係図の通り、選定基準があり、その基準に基づいて効果を作成し、その効果はペインを解消するもの、という逆算で考えていく必要があります。課題をヒアリングして、その効果を実証する、だけでは購買に至らないということです。
最後にグリーン色「意思決定」系要素です。Economic BuyerとChampionのそれぞれが持つクライテリアに沿ってMetricsがあるかを見て意思決定されます。
どのように進めていくか(初級編)
各要素をいきなりすべて埋められるわけではなく、いくつか手順というものがあります。以下の図がわかりやすいでしょう。以下はあくまで参考例であり、案件によって変わってきます。
まずはお客様との初回ミーティングなどが生じますので、ミーティングにおいてPainの特定を行っていきます。次にEconomic Buyerがどの方でどの程度関与するかを確認し、その後相対するお客様(担当者や課長)がChampionかどうかを見極めます。
この3つがそろったら、Decision Criteriaを確認し、Decision Processも理解します。最後にDecision Criteriaに沿ったMetricsを作成して、「改めてEconomic Buyerから承認を取り」、受注に向かいます。
初級編としたのは、ある程度最初はこの手順に沿って埋めていった方がよいためです。だいたい3か月ぐらいのセールスサイクルと思いますが、すべて埋まるまでで2か月程度使っていくようなイメージです。
どのように進めていくか(中級編)
これは実際の体験談ですが、ある程度MEDDICに沿った営業活動を行っていくと、途中から「一気に確認すればよくない?」や「順番変えてもよくない?」と思えてきます。量を担保したことで、質があがり、すぐに提案などが可能な実力がついてきた証拠でしょう。守破離でいうと、「破」状態になっているといえます。
例えば、以下の図のような順番になります。
まず最初に初回ミーティングでアプローチする方がChampionがどうかの吟味(Qualify)から入ります。Championがいるといないとでは、案件確度に大きな差がでてくるため。Championがいない場合は、その案件自体を捨てるということもでてきます。フォーカスアカウントが決まっているケースの場合は、別のChampionを探すということになるでしょう。
Championがいる場合は、Pain特定、DC、DPなども容易に確認と合意がとれますので、あとはEBとの面談をどう攻略するか、どのようにMetricsを作成するかだけに工数を避けるため、とても効率的かつなり短期間な受注が可能です。
この場合は初回→2回目MTGにおいて既に提案を持っていくことなります。
どのように進めるべきか(上級編)
MEDDICを使い続けると、「Championの発掘や育成すら時間の無駄かも。。。Economic Buyerに直接行く?」と考えるようになります。このような考えがチーム内に浸透し始めると戦闘力はだいぶ上がっていることでしょう。
Economic Buyer=Championとすると、これほど強力なことはないです。いかにEconomic Buyerに先に会いに行くか、そしてChampion化するかだけに全工数を集中するようになり、そこでOKが取れれば、あとは社内稟議プロセスを回すだけとなります。
そのほか(MEDDPICCとの違い)
進化したMEDDPICCとの違いを説明します。追加要素は以下です。
P=Paper Work:契約や受注までの書類業務。
MEDDICを使いこなしている場合はDecision Processに入っているものですが、社内口頭合意 → 社内稟議プロセスとなった際に、「うちの会社は稟議で2か月かかるよ」と言われて、間に合わない!となるケースが多くあったので付け加えられたのでしょう。最近はSaaS課金モデルも増えており、これまでとは異なる契約形態も増えているので、「ちゃんと理解しておきましょう」という意味合いもあります。
C=Competition:競合
ほかのフレームワークでは使われますが、競合相手の把握も追加要素で入っています。もともと「お客様の各要素をつかんでいれば、競合なんて関係ない」という概念がMEDDICには強めだったので、入っていなかったと考えていますが、これほど同じ機能性を持つ製品が様々なベンダーから出ている世の中ですと、競合把握も必要になったのでしょう。
まとめ
営業活動において、何をすべきかを明確に定義しているのがMEDDICです。無駄なことはせずに、必要なことのみに集中することができます。また、フォーキャスティングのツールであるため、営業マネージャーからすると、何を部下に確認すべきかも明確にすることができます。
最後に注意点として、「どのように埋めるべきか」も考えておく必要があります。これは個社の営業スタイルによって変わるため、早期に「具体的な施策リスト」も併せて作っておくとよいでしょう。