MEDDICの中でも1,2位を争うぐらい重要なEconomic Buyerです。
最近は月額や従量課金のSaaS製品が世の中に多く出回っており、初期投資を低く抑え、とにかく早いセールスサイクルで受注するスタイルが流行っています。
「LAND & EXPAND」という植民地政策といわれますが、いったん大企業と小さい契約を結び、成果を出してからどんどん広げていく戦法です。このような場合、承認者から承認を得ずとも契約に至るケースもあるでしょう。
しかしながら、外資系企業がもっとも欲しい営業人材は
大型案件を決める実力のある人間
です。
ラスボス(Economic Buyer)攻略は外資IT営業の必須スキル
初回受注はチームリーダーや課長職の方々の承認で済んだとしても、その後拡大を狙った場合はかならず部長、執行役員、取締役などの承認が必要となります。
大型案件の場合、案件単価は最低5,000万円、平均2-3億円となるのが通例です。ときには十数億円となる場合もあります。
したがって、Economic Buyer、つまり
自分の案件で最終的に否決する権利を持っている人
をいかに攻略するかは
大型案件を受注するスキルは外資IT営業に必須
です。
全営業に必須といっても過言ではありません。
転職活動でも過去の実績として求められ、また組織内でセールスロールを挙げていく(昇進をしていく)際にもそのスキルと実績は必要になります。
外資IT営業が高給である背景は、別記事で記載しましたが、意思決定権を持つ方々から承認を得る行為は難易度が高いものであり、高給である1つの理由は高難易度作業を実現するという信用からくるわけです。
齢を重ねていくほどこのスキルは求められますので、ぜひ身につけておきましょう。
Economic Buyer攻略必須スキル1:胆力
執行役員や取締役、もしくは社長についてどのようなイメージをもっておられますでしょうか。
「厳しい」
「いかつい」
「怖い」
「触れたら切られそう」
などと思うのではないでしょうか。
Economic Buyer攻略において、まず営業が心がけるべきは
「臆さない」
ことにつきます。
胆力というとおおげさに聞こえるかもしれないですが、経営層といわれる方々はまずこの胆力をお持ちです。昔風にいうと「ピッとしてる」「気合が入っている」でしょうか。
こういった方々はその中に数多く存在しているわけではないので、たまたま接する機会が少なく営業パーソンに経験が足りていないだけです。こういった方々は自分たちとは異なる視点で物事を考えているため、会話にズレが生じることも仕方ありません。そういった差を埋めることはいくらでもできますが、自分自身の気持ちが乗っていない場合はどうにもなりません。
臆さないための1つの考え方は「相手も一人の人間だ」と考えることです。
貴方と同じように批判されれば内心傷つきますし、四六時中に自分の仕事で悩んでおり、社内外のライバルに負けて悔しい思いもしているわけです。家庭に戻れば頭が上がらない相手もいます。週末のゴルフぐらいが息抜きです。
もしまだ実感がわからないということであれば、20-30代の方々は
「親に聞いてみる」
ということを推奨します。親御さんの年代は6-80歳ぐらいと思いますが、どういう時代で何が流行ってどういうことを考え育ったのか、いろいろと聞いてみましょう。
Economic Buyer攻略必須スキル2:事前に理解する
Economic Buyerに苦手意識を持つ理由の1つが、「上の方なので何を考えているかわからない」ということなのではないでしょうか。
ところが、実は意外と簡単なのです。
何を気にしているのかを理解する
経営層といわれる方々はだいたい共通の懸念事項があります。
- 会社の業績(PL、BS、CF)
PL:売上成長率の鈍化、利益減少
BS:負債バランスや資産効率悪化
CF:現預金残高減少、キャッシュフローバランス悪化
- 市場評価
株価低迷、アナリスト評価格下げ
- 会社のリスク管理
事業継続リスク高、後継者不足、漏洩対策不備、制裁金
これらの懸念は組織のトップであれば当然持っております。悪くなる場合のみならず、目標に届かないということも観点としてあります。
まずは一般的な「会社の業績、評価、リスク」を考えてみましょう。
どのように考えるかを理解する
次にどのように考えるかを理解します。経営層ですと視点が高いため、上流から見ていることになります。Economic Buyerの視点をとらえるにはフレームワークが使えます。
- ヒト、モノ、カネ、情報
経営資源としての4要素です。ベンダーから課題解決支援や施策実現支援の提案を受けた際に、上記のいづれかに効いてくるものなのかを考えていきます。ヒトであれば、人材育成、ケイパビリティ強化、モノであれば製品の機能強化やサービス品質向上、カネは使うほうですので、ROIです。情報は広いですが、システムアーキテクチャやデータアーキテクチャーでしょう。
- Balanced Score Card
前述の懸念事項やヒト、モノ、カネ、情報と共通項も多いです。財務的視点/顧客の視点/社内ビジネスプロセスの視点/学習と成長の視点と中期戦略を合わせて考えています。財務的視点は会社業績でしょうし、学習と成長はヒトです。これまでとなかったものは顧客の視点(自社の価値)と社内ビジネスプロセスでしょう。
何を懸念するか、どのように考えるかさえ分かっていれば、Economic Buyerからの質問も「何を気にしてるのか」がわかるようになります。
Economic Buyer攻略必須スキル3: アクセスする
いくら胆力を持ち、何を気にしているのか、どのように考えているのかがわかっていたとしても実際に会えなければ何もHappenしません。
実際には最初のスキルとして挙げるべきですが、経営層との面談は、チャンスが少なく頻度もそれほど多くありません。そのため事前準備が必須という観点で、1と2を先にあげました。
Economic Buyerに合うにはおおおそ2通りの方法があります。
- コールドコールでアポを取り直接面談の場を持つ
- Championにお願いをしてミーティングの場を設定してもらう
どちらでもいいですが、外資IT営業では伝統的に1.が好まれます。最近はCOVID19の影響でリモートワークがほとんどであり、担当者の方々には部署番号に連絡しても在席していないケースがほとんどです。携帯番号がないとメールのコミュニケーションしかできないです。
しかしながら、Economic Buyerとなる経営層の方々は、これまで同様に会社のオフィスに出社されているケースがとても多いようです。これはDJが最近行ったコールドコールレターキャンペーンでも実感していることです。
コールドコールレターの書き方は、別記事で記載しますが、意外と見直されてもいい手法です。
2.はChampionがいれば意外とすんなり設定をしてもらえます。
この場合のコツは、ミーティングの場にChampionも同席してもらい、かならず後方支援をしてもらうことです。通常はEconomic BuyerとChampionの関係は非常に良好であり、役員も「かわいがっているこいつの言うことなら耳を傾けるよ」という場合が多いです。
Economic Buyerをどう捉えるか
Economic Buyerを1名だけ、という先入観を持っていると後々大きな失敗をすることになります。
Economic Buyerとは、
自分の案件に、最終的にNOといえる権限を持つ人あるいは集団
と捉えましょう。
たとえば、生産管理部門向けの製品を担当しているとします。
そして執行役員である生産管理部門長Aさんの決裁金額は5000万円です(5000万円以下なら自分で決裁できる)。この断片的な情報からEconomic BuyerはAさんだと決めつけると危険です。
自社製品が5,500万円程度の金額として、生産管理部門の決裁金額が5000万以内にするために、十数%程度値引きして下回るようにする、というテクニックもあるかもしれません。
実際にはAさんだけの意思決定で決裁できるわけではなく、同じ生産管理を管掌する取締役(Aさんとは子弟の関係)、CFO(財務管掌取締役)などと事前討議が必要な場合もあるからです。
こういったケースの場合は、Decision Processを確認することでリスクを回避できます。
質問としては「これまで同程度の投資案件を行ったことがありますか」「A様が稟議承認をする際のルートを教えていただけますか」「社長や取締役、財務部門などへの承認は必要ではないですか」などとなり、これらをぶつけて明確化をしていきます。
Economic Buyerが経営会議である場合も少なくない
さらに大型な投資案件は通常経営会議で決定されます。
定義に沿って考えると、この経営会議自体がEconomic Buyerと捉える必要があります。
経営会議は経営権を持っている複数名の役員で、重要な案件の合意を取る会議です。
当然案件の発議を行った担当者や部課長あるいは執行役員なども同席し、案件説明を行います。困ったことにその場には外部の人間(つまり営業)が同席することはできないのが通例です。
ただし、攻略方法がないかといえばそうではなく、日本企業において経営会議で「喧々諤々の議論」を行うということはあまりなく、前準備の段階である程度合意がなされている場合の方が多いです。
したがって、自社ソリューションの案件が経営会議で審議をかけられるとしたら、誰がどのような反論をするか、等の確認を行えばいいわけです。
またフォーキャスト上は、会議体がいつ行われるものなのかを確認する必要もあります。
たいていは「毎週〇曜日の〇時から定例会議」とか「毎月〇〇日」などのように決まった会議体であることが多いため、確認するだけで契約までのスケジュールが描きやすくなります。
会社に対して大きな意思決定となる金額の場合は、取締役会での決議となる場合もあります。
最強戦略:Economic Buyer=Championが最短の道
逆に考えると、Economic BuyerがChampionになってくれるのが最も早いわけです。
経営会議のメンバーすべてにお会いしてChampion化するというのは現実的でないですが実行するとさすがに営業工数がかかり、セールスサイクルも伸びてしまいます。
そのため、メインとなるEconomic Buyerをターゲットして、アプローチすることがよいでしょう。
Economic Buyerに直接アプローチした場合、部下を同席させるケースも半々ぐらいあります。
DJは部下を同席させないケースは、自分で意思決定して自分で決めるタイプの人であり、Championにするチャンスと考えます。
同席させるケースの場合は、自分にその領域に自信がない、意思決定しないタイプと捉えることもできますが、同席させた部下がよほど信頼されているかのどちらかと想定していきます。その場合のミーティングは双方を納得させるようなやり取りを行う必要があります。
まとめ
Economic Buyerは最終的にNoといえる人または集団と捉えて、自社の案件を進めるうえで誰がEconomic Buyerとなるのかを確認しましょう。またEconomic Buyerとなる人については、必ずアクセスをするようにしましょう。会ってもいない人間の商材を買うかどうかということを考えるとおのずと答えは出てくると思います。