MEDDICにおいても最初、つまり案件構築の「基礎のキ」となる、Identify Painです。
「痛みの特定」が直訳ですが、Pではなく語呂をよくするためにIdentify Pain(痛みの特定)としています。ただし、「特定する」というのも実は重要です。
Pain=痛み、という語感が想起させるように、痛みを伴うような内容となります。
Painの捉え方
提案するソリューション=解決策である以上、お客様の問題解決や課題実現の支援となるものでなければいけません。それらを遂行する際に困っていることをPainといいます。
Painの捉え方には大きく2つあります。
・売上拡大、新規市場進出など、将来あることを実現するために、障害となるもの
・利益確保、リスク最小化など、いまのことを維持するために、障害となるもの
この2つの観点を持っておくと、現状にPainがないと主張する場合であっても将来に充てて討議を開始することができます。
まずヒアリングにおいての観点では、将来どのようなことを実現されたいのか(3か年計画の部門方針や施策等)をお伺いしつつ、現状の運営でも問題がないかを確認するのがいいでしょう。
いきなり現状から入ってもよいですが、将来的なことを話す余裕がなくなります。どこかのタイミングで将来的なことを見据えて、現状の改善を行うとしたほうがお客様も受け入れやすいです。
Painを浅く捉えない
ミーティングにおいてお客様から「現状で何か課題はありませんか」と聞けば、「そうですね、●●ということで困っていますね」という回答がすぐにくるでしょう。
しかしながら、それに飛びついて解決策を提案すると、上滑りな内容となり承諾が得られにくいです。
経験の浅い営業にありがちな「これは案件だと思います。まだお客様が決心していないだけです」といって、案件をクローズしないまま滞留することになります。
まず「課題」と「問題」の言葉の意味を適切に使い分けましょう。課題=問題と捉えがちですが、課題はアサインメント、つまり宿題などであり、企業でいえば施策や取り組み事項、やらなければいけないことを示します。
問題は、何かしらの事象の背後にある原因であり、これを特定できるかどうかがコツとなります。例えば、「繁忙期になると残業時間が増えて、チーム員が疲弊している」という内容を聞いたとして、「疲弊している」がPainととらえてはいけません。それに対して「疲弊を軽減する提案」をすると間違った提案になります。
たとえば、「残業時間が増える」ということも、あくまで表面的な事象でしかないわけです。
それに対して「残業時間を減らす提案をします」としても、上滑りした内容になります。ここでは残業時間が増える背景をできれば3段階、少なくとも2段階程度掘り下げて聞く必要があります。
そもそも繁忙期の業務量に対する要員が確保できていない/使っている道具(システム、ツール)が古い/業務プロセスにおいて特定要員に業務が集中している/業務が求める水準に要員のスキルが追い付いていない、等です。
この掘り下げには、ロジックツリーやなぜなぜ分析(5 Why)などが有効です。
もう少しわかりやすい説明ですと、体の痛みや凝りの解消などでもそうです。
現在は時間単価ですと1,000円/20分程度のマッサージがだいぶ増えてきましたが(これまでは1,000円/10分が相場)、これは「押してほぐす」だけにフォーカスした簡易マッサージです。筋肉に対して主に働きかけします。
しかし腰痛、肩こり、首痛などは、それ以外の原因である場合があります。整体やカイロプラクティックで行う施術は、過程においては筋肉もほぐしますが、関節や筋肉がつながる筋に働きかけをします。カイロは骨のつながりですね。どちらも「緩める」という言葉がぴったりです。
どれがよいか悪いかではなく、ヒトの体によってその痛みの原因は異なるので、自分の症状に応じた施術方式を学ぶことがよいでしょう。仕事の合間などにささっと解消したい場合は簡易マッサージ。長期にわたって通院して少しづつ根本治療したい場合は、整体やカイロとなります。
社内で「PAINリスト」があるととても便利
ある程度大きな営業組織の場合は、どのような問題が自社製品の提案対象となるのか、問題一覧「PAINリスト」のようなものがあるはずです。
外資日本オフィスによっては、個人商店の集まりのような形態もありますが、その場合はできる諸先輩方や上司にどんどん聞きましょう。ある程度一覧として持っているととても楽になります。
問題の特定について、DJはよくいくつかのカテゴリーで考えていきます。
カネ
予算面です。予算は常に制約がありますので、カネ面はとくに考えなくてよいでしょう。
ヒト
要員の体制、人数、スキルなどです。これが根本であると考える場合がよくありますが、ヒトを対象とすると「では要員削減しましょう」と日本の商習慣では受け入れられない方向に行きがちですので、要注意です。スキル向上はよいですが、「本当に向上できるか不安」と思われてしまうとスタックするので、とくにヒトを悪者にすると、反感を食らいやすいのでここ全面的に要注意です。
モノ
現状のシステムやツールです。ここに問題特定の焦点を合わせると提案しやすいため、よく話を聞きましょう。
注意点として、自社開発システム(スクラッチシステム)は、開発をした方々の思いが入っていたり、開発費用もそれなりにかかっている場合もあるので、社内反対派を作ってしまう可能性があります。その場合は、既存システムのさらなる活用というポジショニングで、その周辺にあるツールを問題視していきましょう。
プロセス
既存システムに乗っかっている業務やそのプロセスです。もともとは紙ベースや物理上の業務をしていたわけですが、システム化されて、そのシステム上での業務がほとんどになっています。業務自体は変更できるためにこれも第二のターゲットになりますが、「業務を変えたがらない」のが人の常であるため、変えたい業務と変えたくない業務の見極めが大事です。
Compelling Event=コンペリングイベントを確認する
Compellingとは「切実な」とか「やらざるを得ない」という意味です。Eventは、出来事・物事ぐらいで捉えればよいす。
コンペリングイベントとは
「●月●日までに完了させなければいけない、何かしらの出来事」
というものになります。
たとえば、あるシステムの基盤に古いサーバーを使っている等の場合。サーバーはメーカーから保守対応期限切れが必ず起きますので、それに合わせて新しいサーバーに移行しないといけないわけです。保守切れ期限が●月●日とすると、それまでに必ず完了する必要があります。
コンペリングイベントがないと、「すぐに解決する必要性に欠ける」ということになり、お客様も優先順位があがらず、課題の掘り下げができていい提案はしていてもいつまでも導入の決定に至らないということが起きます。
まとめ
日本社会において企業に勤める方々は高等教育まで受けたリテラシーを持ちます。またまじめな気質をもつため、常に改善を行っています。
これからヒアリングする内容も、十数年あるいは数十年脈々と受け継がれてきた事業についてのPainを特定するという意識をもって確認を進めていきましょう。